ジム・オルテは、アートスタジオのパティオで太陽の下に裸足で座り、隣人と他愛のない会話を楽しんでいました。
「やあ、みんな!」彼は立ち上がると満面の笑みで挨拶し、すぐに私たちを迎え入れてくれました。
スタジオに一歩足を踏み入れるとまず目に飛んでくるのは、天井から吊り下がる何百フィートもの太い海軍用ロープと、巨大な色付きグラスファイバーのモビールです。ジムが「人工の昆虫の森」と呼ぶこのインスタレーションは、空間全体に不思議な静けさとダイナミズムを与えています。切り株のうえに無造作に置かれたリック・ルービンの著書「The Creative Act A Way of Being」の隣には灰皿とノートパソコンが置かれ、スタージル・シンプソンの最高の曲が流れていました。
「スタージルって本当にいいよね!」とジムは穏やかに語りながら、スタジオに吊るされた作品の間を歩き回りました。まるで自分の創造の空間をひとつひとつ確かめているような、その姿が印象的でした。
ジムとほんの数分話しただけで、彼には語るべきストーリーがあるとすぐに感じるでしょう。
それは1つではなく、もっとたくさんあるに違いありません。
テーブルの上には、拾った貝殻や捨てられたサーフボードのフィン、その他海から回収された遺物たちがずらりと並んでいます。その横には「Manifest That Shit」と書かれた日記が置かれ、本や無造作に散らばった写真が周囲を取り囲んでいました。これらを目にするほどにジム・オルテという人物がどんな人間なのか、さらに興味を掻き立てられます。
海で回収された遺物が放つエネルギーを映し出すかのようにジムはユニークで活気にあふれ、生き生きとしています。でもその存在感はどこか控えめで、本物らしさを感じさせます。
私たちはカールスバッドのあるショップまでジムと一緒にドライブをする機会があり、彼のこれまでの旅について詳しく話を聞くことができました。
ずっとマクラメとグラスファイバーを扱ってきたのですか?
「マクラメをはじめたのは学生時代。その後アートディレクターのロキシーに、店舗用のマクラメ作品をつくれますか?」と依頼され、「勿論できます。やらせてください!」と答えたのがきっかけで、早い段階から大きな規模の仕事や、重要なプロジェクトを幾つか任されるようになった。その後、友人のつながりでCraft Contemporaryで展示会を開く機会にも恵まれた。美術館での展示は、自分の作品に対する評価を確立し、正当性を得るために大きな助けになったよ。
私はいつも最初のつながりがどうやって生まれるのか、そしてそれが最終的に自分の作品を大きく世に送り出すことにつながるのか、そういう部分に興味を持っているんだ。
私はとても幸運だった。本当に「人脈」がものを言う世界だから。そして、その高いレベルのクリエイティブな人たちと一緒に仕事をするようになると、ある時点で彼らから「ジムを雇うべきだ!」と思ってもらえるようになる。そして気が付くと、そこに自分がいいる。正直なところ、こうした状況が自分のキャリアでは何度かあった。多くの場合、人脈を持っていることが本当に大切なんだ。もちろん、一生懸命働いてきたし、注目を集めたいと思っていたわけではない。ただ仕事がしっかりしていて一貫性があり、自分がいい人間であればこういうことが起こるのだと思う。いい人間であることは本当に重要。得るためには与えなければならない、これは人としての基本だね。
人々は間違いなく、私が持つ周波数に惹かれている。
スタジオに入った時のあなた方の反応を見ると、過去のゲストもみんな基本的に同じようなことを感じてくれていた。作品が大きく、それを許容できるスペースがあったから「昆虫の森」を作ろうと思ったんだ。そこにいるような感覚を味わえるでしょう?インドークのマットが私の作品を本当に気に入ってくれた理由の一つは、作品が立体的だったから。壁にかかっているわけじゃなく、部屋の真ん中にあり、その周りを歩き回ることができる。「触ってください」というサインまで作ったんだ。なぜなら、みんなに実際に触れてもらいたいから。十分な大きさがあって、丈夫で、繊細過ぎない、どこか男らしい雰囲気もある。だから「触ってみて!壊れないから大丈夫!」と言いたいんだ。」
いつからグラスファイバーを作品に取り入れ始めたのですか?
「私はいつも自然の中で不自然なものがないか探している。ゴミや鉛のおもりとかね。自然の中にあるテクスチャーや色を見つける目が養われたんだ。
そんなある日、グラスファイバーを集め始めたんだ。10年近く、コロナ・デル・マーのカメオ・ショアーズで毎日ビーチコーミングをしていた。5時間くらいビーチに行って日焼けをして、ぶらぶらするのが好きだった。あのビーチは裏側まで知り尽くしているよ。私には決まったパターンがあって、バスに乗ってドーナツを買って、3時間から5時間ビーチで過ごす。キャリアはあったけど、キャリアよりビーチコーミングの方が好きだった。キャリアを築く前に実際に何かを見つけることの方が大切だったんだ。
もちろん、情熱もそこにある。周囲の環境にどっぷり浸り、ビーチで1日を過ごす。完全に没頭しているんだ。
小さな海の生き物、ある種の動物には海藻を食べる場所の小さなサイクルがあって、何度も通っていると毎日何かしら見えてくる。目が鍛えられてくるんだ。岩の色や形、質感がはっきりわかるようになる。時にはビーチに行って、最初に見つけた貝殻がその日に見つけるものの指標になることがある、それが大好きなんだ。それに、あらゆるものに対してオープンでいることも大切だね。
これは15年間ビーチコーミングを続けた錘(おもり)のようなもの。もし知らなかったらただの灰色の石ころにしか見えないだろう。でも、形や海水で酸化した独特の鉛色を探すんだ。これは本当に考古学のような作業なんだよ。」
あなたは明らかに地球に対して生まれながらの愛情を持っていますね。ビーチをきれいにしたり、捨てられたものを再利用したりすることへの情熱は昔から持っていましたか?
「もちろん。カメオ・ショアーズで一日中過ごすときは、プラスチック片を片っ端から拾っていた。長い間そうして、ありとあらゆるものを取り除いた。身に見えるごみは拾うけど、ビーチはマイクロプラスチックであふれている。それが時にはビーチを楽しむ高揚感を台無しにしてしまうこともあったよ。でも素晴らしいことに、ゴミ拾いを喜んでやってくれる人たちがたくさんいる。みんなで協力すればうまくいくんだ。」
ビーチに捨てられてるゴミの量は想像を超えますね。でもそれらを再利用できれば役に立ちますよね?
「ある時、1年か2年ほどビーチ用シャベルを集めて、それを海岸で見つけたロープで結びつけたんだ。気が付いたら10フィートものビーチ用シャベルの立体作品ができていた。そしてそれがどんどん大きくなって、最終的にはHurleyの本社に売ることになっていた。彼らもとても気に入ってくれて、素晴らしい作品になったよ。」
ビーチコーミングで見つけた同じ材料をいつも使っていますか?
「ガラス繊維や流木を拾うと、どんな作品にするかが見えていることが多い。グラスファイバーで作品を作るときは、素材の一番いい部分を一番下から使い、一番最後に飾る部分には、一番美しい素材を使う。時には小さな素材が、その作品の宝石になることもある。良いビーチコーミングができたときは、その日に拾った素材で作品を作るんだ。そうでなければ、ただのグラスファイバーの山が出来上がるだけ。でも、うまく作られれば、その日の出来事を物語る作品になるんだ。私の作品の中には、すべて同じ潮から採取した素材を使って作ったものもあったり、それぞれの作品にはストーリーがある。ストーリーがなければ作品は成り立たない。人々は、特定のプロジェクトの背景や、僕の目指す方向性を知りたがっているんだよ。」
その通りですね。人々はいい物語が大好きです。
「ビーチにいるとき、「左に行くべきか、右に行くべきか?」って時々考えてから、「よし、左に行こう」と決断することがある。左に行ったことで、特別な何かを見つけることができるんだ。ビーチコーミングをしていると、たまに目に留まる石や岩がある。それに近づいてみると、本当い宝物がすぐ隣に転がっているんだ。
友人たちはよくこう言うんだ。「ジム、君が見つけているんじゃない、君を見つけているんだよ」ってね。本当にその通り。僕の彫刻の一部になりたがっている。リック・ルービンの本にも書いてあるように、心を開いてないと受け取れない。見つけたものは全て驚きだし、どれも素晴らしいものばかりなんだ。」
人生も同じように、時には計画を立てても、最終的にたどり着く場所は予想もしていなかった、もっと美しい道であることがありますよね?
「その通り。そして、こうすべきだった、なんでこうできなかったのか、と自分を追い込むことは良くない。できることだけを一歩一歩やる。時には雨が降ることもあるだろう。思い通りにいかないとき、何か人や出来事のせいにするのは簡単だけれども、決まり文句は好きじゃない。私が大事にしているのは、ただ子供のような好奇心を持ち続けること、それが一番大事だよ。」
現在、ジム・オラーテがアップサイクルした見事な作品が、カールスバッドの店舗に展示されている。彼の独自の視点と情熱が詰まった作品を、ぜひその目で確かめてほしい。
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